title_rousai1

近年、仕事によるストレス(業務による心理的負荷)が関係した精神障害についての労災請求が増え、その認定(発病した精神障害が業務上のものと認められるかの判断)を迅速に行うことが求められています。
厚生労働省では、これまで平成11年に定めた「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」に基づいて労災認定を行っていましたが、より迅速な判断ができるよう、また皆さまにも分かりやすい基準となるよう、平成23年12月に「心理的負荷による精神障害の認定基準」(以下「認定基準」といいます)を新たに定め、これに基づいて労災認定を行うことにしました

ti_rousai1_1

精神障害は、外部からのストレス(仕事によるストレスや私生活でのストレス)とそのストレスへの個人の対応力の強さとの関係で発病に至ると考えられています。
発病した精神障害が労災認定されるのは、その発病が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限ります。
仕事によるストレス(業務による心理的負荷)が強かった場合でも、同時に私生活でのストレス(業務以外の心理的負荷)が強かったり、その人の既往症やアルコール依存など(個体側要因)が関係している場合には、どれが発病の原因なのかを医学的に慎重に判断しなければなりません。

精神障害は、さまざまな要因で発病します
img_rousai1

ti_rousai1_2

労災認定のための要件は次のとおりです。

  1. 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  2. 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

・「業務による強い心理的負荷が認められている」とは、業務による具体的な出来事があり、その出来事とその後の状況が、労働者に強い心理的負荷を与えたことをいいます。
・心理的負荷の強度は、精神障害を発病した労働者がその出来事とその後の状況を主観的にどう受け止めたかではなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価します。「同種の労働者」とは、職種、職場における立場や職責、年齢、経験などが類似する人をいいます。

ti_rousai1_3

精神障害の既往歴やアルコール依存状況などの個体側要因については、その有無とその内容について確認し、個体側要因がある場合には、それが発病の原因であるといえるか、慎重に判断します。

ti_rousai1_4

業務による心理的負荷によって精神障害を発病した人が自殺を図った場合は、精神障害によって、正常な認識や行為選択能力、自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったもの(故意の欠如)と推定され、原則としてその死亡は労災認定されます。

img_rousai2

ti_rousai1_5

事例① : 「新規事業の担当となった」ことにより、「適応障害」を発病したとして認定された事例

Bさんは、大学卒業後、デジタル通信関連会社に設計技師として勤務していたところ、3年目にプロジェクトリーダーに昇格し、新たな分野の商品開発に従事することとなった。しかし、同社にとって初めての技術が多く、設計は難航し、Bさんの帰宅は翌日の午前2時頃に及ぶこともあり、以後、会社から特段の支援もないまま1か月当たりの時間外労働時間数は90~120時間で推移した。

新プロジェクトに従事してから約4か月後、抑うつ気分、食欲低下といった症伏が生じ、心療内科を受診したところ「適応障害」と診断された。

【判断】

  1. 新たな分野の商品開発のプロジェクトリーダーとなったことは、別表1の具体的出来事10「新規業務の担当になった、会社の建て直しの担当になった」に該当するが、失敗した場合に大幅な業績悪化につながるものではなかったことから、心理的負荷「中」の具体例である「新規事業等の担当になった」に合致し、さらに、この出来事後に恒常的な長時間労働も認められることから、総合評価は「強」と判断される。
  2. 発病直前に妻が交通事故で軽傷を負う出来事があったが。その他に業務以外の心理的負荷、個体側要因はいずれも顕著なものはなかった。

1.2.より、Bさんは労災認定された。

事例② : 「ひどい嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」ことにより、「うつ病」を発病したとして認定された事例

Aさんは、総合衣料販売店に営業職として勤務していたところ、異動して係長に昇格し、主に新規顧客の開拓などに従事することとなった。新部署の上司はAさんに対して連日のように叱責を繰り返し、その際には、「辞めてしまえ」「死ね」といった発言や書類を投げつけるなどの行為を伴うことも度々あった。

係長に昇格してから3か月後、抑うつ気分、睡眠障害などの症状が生じ、精神科を受診したところ「うつ病」と診断された。

【判断】

  1. 上司のAさんに対する言動には、人格や人間性を否定するようなものが含まれており、それが執拗に行われている状況も認められることから、別表1の具体的出来事29「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の心理的負荷「強」の具体例である「部下に対する上司の言動が、業務範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた」に合致し、総合評価は「強」と判断される。
  2. 業務以外の心理的負荷、個体側要因はいずれも顕著なものはなかった。

1.2.より、Aさんは労災認定された。